【業界別】日本企業の健康経営の事例と数字の読み方|花王・SOMPO・KDDI・ロート製薬ほか

最終更新:2026年10月28日 / Longevity Methods for 戦略的健康経営編集部

エビデンス:ヒト試験は限定的

小規模・短期のヒト試験はあるが、結論は未確立

今回の評価:認定情報(健康経営銘柄・ホワイト500)は、経済産業省・日本健康会議の情報にもとづく確度の高い事実です。一方、各社のプレゼンティーイズムの改善率・喫煙率などの数値は、原則としてすべて各社の統合報告書・健康白書における自己申告・自社集計であり、測定尺度も各社で異なります。数値を横並びで比較することはできず、施策とアウトカムの因果も確立していません。

要点(現時点の研究状況)

  • 業界別に、代表的な企業の取り組みと数値を整理しています。製造(花王・コニカミノルタ・味の素)、金融保険(SOMPO・第一生命・明治安田)、IT通信(SCSK・KDDI)、小売(丸井・ローソン)、医薬(ロート製薬)です。多くが、健康経営銘柄・ホワイト500に継続して選定されています。たとえば花王の健康経営は、プレゼンティーイズムを経営指標(KPI)にし、健診・生活習慣・医療費のデータを毎年「花王健康白書」にまとめている点が特徴です(健康経営銘柄に11度目の選定・ホワイト500に10年連続〔2026年・自社公表〕。喫煙率・高ストレス者率は目標未達と開示)。
  • 各社のプレゼンティーイズム等の数値は自己申告・自社集計であり、測定尺度も各社で異なります(WLQ-J/SPQ/WHO-HPQ/WFun)。『損失=低いほど良い』尺度と『パフォーマンス=高いほど良い』尺度が混在しており、各社の数値を横並びで比較することはできません。
  • 健康経営に取り組めば、すべての指標が改善するわけではありません。味の素はプレゼンティーイズムが横ばい・欠勤が微増、KDDIは欠勤が増加しており、各社とも喫煙率・高ストレス者率などで目標未達を開示しています。未達も含めて開示する姿勢は、評価できるものです。
  • 『健康経営銘柄だから株価・業績が高い』という関係は、因果ではなく、相関・交絡である可能性が高いといえます。査読論文の著者や証券リサーチが、逆の因果(優良企業だから両立できる)や、バリュー相場という外部要因、測定方法の未確立を指摘しています。

本記事の読み方:数値は自己申告であり、各社の比較はできない

日本の健康経営は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」と、日本健康会議が認定する「健康経営優良法人(ホワイト500)」という枠組みで可視化されてきました(2つの制度の違い・対象・一覧の確認方法は健康経営銘柄とは(ホワイト500との違い)で整理しています)。認定・選定の事実は確度の高い公的情報です。しかし、各社が公表するプレゼンティーイズム(出勤しているが不調で生産性が下がっている状態)の改善率や喫煙率などの数値は、原則すべて各社の統合報告書・健康白書での「自己申告・自社集計」で、第三者監査済みでも査読論文でもありません。

さらに重要な注意点として、プレゼンティーイズムの測定尺度が各社で異なります。SOMPOはWLQ-J、第一生命・SCSK・ロート製薬はSPQ(東大1項目版)、味の素・明治安田・KDDIはWHO-HPQ系、コニカミノルタはWFun。しかも「損失値=低いほど良い」尺度と「パフォーマンス値=高いほど良い」尺度が混在しています。そのため、A社の「24%」とB社の「69点」を並べて優劣を論じることはできません。本記事は各社の数値を「尺度名・年度・自己申告である旨」とセットで読み解きます。各尺度が何を測り、なぜスコアの方向が逆になるのかはプレゼンティーイズム測定 主要5尺度の比較で整理しています。

① 製造業:花王・コニカミノルタ・味の素

花王は、プレゼンティーイズムを経営指標としてKPI化した代表的な企業です。健康経営銘柄に11度目の選定(2026年)、ホワイト500に10年連続で認定され(自社公表)、健診データ・生活習慣・医療費データ等を経年比較する「花王健康白書」を毎年作成しています。プレゼンティーイズム損失値(低いほど良い)は男性17.2/女性18.8(2025年度・SPQ準拠。※2024年度から測定手法を変更しており時系列は断絶)。一方で喫煙率(男23.6%/女13.7%)や高ストレス者率は目標未達と開示しており、好ましい数字だけを公表していない点は評価できます。

コニカミノルタ(健康経営銘柄に2015年以降計7回選定〔経済産業省の健康経営銘柄2022レポートで7度目、2023〜2026年の選定企業には含まれていません〕・ホワイト500を2017〜2026年連続、2026年11月1日確認)は、プレゼンティーイズムをWFun(労働機能障害)で測定し、中程度以上の割合が18.2%(2023年度)→17.8%(2024年度)→17.7%(2025年度、目標15.1%)と報告しています。休務者の平均休務日数(アブセンティーイズム)は2024年度に12%減、2025年度は7%減(目標17%減)です。

味の素(ホワイト500を9年連続、味の素グループ健康白書2025年度版。※経済産業省の健康経営銘柄2025・2026の選定企業一覧には含まれていません)は、就業時間中の全面禁煙などで喫煙率を19.0%→10.9%へ大きく下げた一方、プレゼンティーイズム(WHO-HPQ)は74.4→74.5とほぼ横ばい、欠勤日数はむしろ1.7→2.3日へ微増しています。「健康経営に取り組めば全指標が良くなる」わけではない、という実態を示す事例です。

② 金融・保険:SOMPO・第一生命・明治安田(尺度の方向が逆の事例)

この業界の事例からは、「尺度が異なると比較できない」ことがよくわかります。SOMPOホールディングス(ホワイト500を10年連続(2026年)。※経済産業省の健康経営銘柄2025・2026の選定企業一覧には含まれていません)は、プレゼンティーイズムを自社グループのWLQ-Jで測定し、2025年度のスコアは95.5%(2024年度95.3%)、健診受診率100%、喫煙率9.9%と公表しています。

第一生命(銘柄2015・2024・2025、ホワイト500を10年連続)はSPQ(東大1項目版)で測定し、プレゼンティーイズムは23.4%(2023年度)→23.3%(2024年度)→22.5%(2025年度。2026年度目標は20.0%未満)、高ストレス者割合15.3%(2025年度・2026年度目標10.0%)と、未達も明示しています。

対して明治安田生命(相互会社のため、健康経営銘柄の対象外)はWHO-HPQ版で、プレゼンティーイズムを職員62.5(2022年度)→69.9(2025年度)、全体(職員・LC)53.8→59.4と公表しています。第一生命の「22.5%(低いほど良い損失尺度)」と明治安田の「69.9(高いほど良いパフォーマンス尺度)」は方向が逆であり、並べて比較する意味はありません。同じ「プレゼンティーイズム」でも、内容はまったく異なります。

③ IT・通信:SCSK・KDDI

SCSKは、健康経営銘柄に11年連続(2015〜2025)で選定されている企業です。健康行動と健診結果をポイント化する「健康わくわくマイレージ」(2025年度の支給総額は約1.4億円)や、月間平均残業20時間以内+年次有給20日100%取得を掲げる「スマートワーク・チャレンジ」が特徴です。公式ページの本文に数値があるのは、2025年度ストレスチェックの「仕事に満足だ」2.2点・「働きがいのある仕事だ」2.2点(1〜4点で、数字が小さいほど肯定的な回答の全社平均)、2025年度の喫煙率11.5%、1日平均歩数(2019年度9,675歩、2025年度8,042歩)などです。一方、ワーク・エンゲイジメント(UWES 9項目版)、プレゼンティーイズム(SPQ東大1項目版で80%以上発揮できた社員の割合)、アブセンティーイズム(疾病による欠勤0時間の社員の割合)の推移はグラフのみで、本文に数値はありません(2025年度「健康に関するアンケート」測定人数8,137名・回答率96.0%)。これらの3指標は、測定方法は公表されているが数値は本文で確認できない指標として読む必要があります。

KDDI(健康経営銘柄2025に初選定、健康経営優良法人2026 ホワイト500に認定)は、社内カウンセラーによる全社員面談(年2回・実施率100%)などデータ開示が豊富です。WHO-HPQ方式のプレゼンティーイズム(生産性損失割合)は34.7%(2021年度)→33.6%→32.4%→33.8%→34.2%(2025年度)と年度で上下し単調改善ではなく、欠勤日数は3.98日(2021年度)→4.79日(2024年度)→4.35日(2025年度)と2021年度より多く、有給取得率は73.8%→84.0%へ上昇しています(在宅勤務比率や法改正などの交絡要因は分解されていません)。

④ 小売・サービス:丸井グループ・ローソン

丸井グループは、2018年から連続で健康経営銘柄に選定されています(自社公表)。2026年度より、産業医で常務執行役員のCWO(Chief Well-being Officer)が健康保険組合の理事長を兼任しています。なお丸井は「プレゼンティーイズムKPI化」で広く知られますが、グループ全体の指標値・尺度名は今回の一次情報(ESGデータブック等)では特定できませんでした。当サイトでは、「先進事例として知られているが、具体的な数値は本調査では確認できなかった」と区別して記載しています。

ローソン(健康経営優良法人2026 ホワイト500に認定)は、社長直轄の「ローソングループ健康推進室」、食事管理アプリを使いチーム単位で参加する「元気チャレンジ!」(2025年度で9年目・アプリ稼働者数3,620名)などを継続しています。定期健康診断の受診率と再受診報告率は毎年100%、ローソン健康保険組合(全年齢・本人加入者)で「たばこを習慣的に吸っていない」と答えた割合は72.5%(2024年度)→73.7%(2025年度・目標75.0%)と公表し、2025年度の健診結果のKPIは目標未達と開示しています(プレゼンティーイズムの標準尺度・数値は今回一次確認できず)。

⑤ 医薬・ヘルスケア:ロート製薬(測定人数・回答率を併記)

ロート製薬は、2014年度にCHO(チーフヘルスオフィサー)を設置し、第1回の健康経営銘柄と健康経営銘柄2025に選定、2026年3月にホワイト500に6年連続9度目の認定を受けています。2018年度に導入した社内健康通貨「ARUCO」などの施策とともに、プレゼンティーイズム(SPQ)が17.7%(2023年度)→16.8%(2024年度)→17.1%(2025年度)、喫煙者割合2.0%(2025年度・目標0%)と公表しています。

同社の指標データは、年度ごとの測定人数と回答率(プレゼンティーイズムは78.1%→83.3%→90.7%)を併記し、SPQ(東大1項目版)の算出方法と、アブセンティーイズムに「傷病を理由とした有休取得日数は未把握」であることを注記しています。回答率が年度で異なるため、各年度の数値は同じ集団を追跡したものではありません。

⑥ 「健康経営銘柄だから業績・株価が高い」という関係の検証

健康経営を論じる際に最も陥りやすいのが、「健康経営に取り組む企業は株価・業績が良い→だから健康経営をすれば業績が上がる」という因果の取り違えです。専門家・査読誌・証券リサーチは、いずれもこの点に慎重な姿勢を示しています。

  • 因果の方向が未確定:健康経営と企業価値を分析した研究者(一橋大・安田行宏氏ら)は、公式対談で「業績が良いから福利厚生を充実でき従業員が健康なのか、健康だから好業績なのか、因果のメカニズムを明らかにする必要がある」とし、個人の健康改善から企業業績への論理には「飛躍がある」と警告しています。銘柄の株価効果が見えても、それは相関であって因果の証明ではありません。
  • 外部要因(交絡):証券リサーチ(野村證券・2026年)は、健康経営銘柄全体の株価はTOPIX並みかやや下回る期間が多く、一部で上回るのも「2021年以降の割安株(バリュー)相場が追い風」という外部要因が大きい、と指摘しています。
  • 研究段階・測定の未確立:健康経営の効果研究は日本ではまだ「仮説試論」段階との指摘(広島国際大・2023)があり、プレゼンティーイズムの測定も査読レビュー(獨協医科大・武藤孝司氏ら2020)が「労働生産性損失の測定方法論の確立」を今後の課題に挙げています。尺度が多数あり、金額換算も方式によって変わり、日本人は自己申告値が低く出やすいなど、数値には複数の留保が必要です。プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムがそもそも何を指す指標なのかは用語と位置づけの解説記事で整理しています。

このように、「健康経営銘柄の企業の株価が高い」のは、健康経営が業績を押し上げたというよりも、もともと経営体力のある優良企業が、健康経営と株価の両方を実現できている(交絡・自己選択)可能性が高いといえます。この視点を欠くと、投資判断も自社の取り組みの評価も誤るおそれがあります。

経営者への示唆:他社との比較より自社の指標で追う

以上をふまえると、経営者が国内事例から学ぶべきは「他社の数字に勝つこと」ではありません。尺度も母集団も異なる数値を横並びで比較することには、意味がないためです。むしろ、①自社で1つの尺度を決めて継続的に測定し、自社内の時系列で追う、②医療費削減の直接ROIを主目的にせず、生産性(プレゼンティーイズム)・エンゲージメント・離職防止・採用力といった自社にとっての意味で評価する、③未達も含めて開示する(花王・第一生命・ロート製薬のように)という3点が、流行に左右されない健康経営の設計です。基礎の考え方は健康経営とは何か(投資対効果の考え方)、海外の視点は【業界別】海外企業の健康投資、自社で認定取得を目指す場合の手順は健康経営優良法人の取得ロードマップもあわせてご覧ください。

数字の尺度と出典を確認して健康経営の質を高めます

日本企業の健康経営には、花王やロート製薬のように精緻な取り組みが数多くあります。ただし、重要なのは公表される改善率の大きさではなく、「その数字はどの尺度で、誰が、どのように測定したのか」を確認することです。尺度が異なれば比較はできず、自己申告であれば過大評価の可能性もあり、株価との関係は相関にとどまります。この前提を理解したうえで、自社の指標で検証しながら投資することが、経営資源としての健康経営の適切な進め方です。当サイトでは、国内外の施策について、「経営効果の裏づけがあるか」という視点で、引き続き情報を整理します。

出典・参考にした研究

※本記事は効果効能を保証・断定するものではなく、公表されている研究・一次情報を中立に整理したものです。サプリメントは医薬品ではありません。体調・治療の判断は医師等の専門家にご相談ください。

よくある質問

日本企業の健康経営で有名な企業は?

健康経営銘柄またはホワイト500に継続して選定されている企業として、製造では花王・コニカミノルタ・味の素、金融保険ではSOMPO・第一生命、IT通信ではSCSK・KDDI、小売では丸井グループ、医薬ではロート製薬などが挙げられます。花王やロート製薬は、プレゼンティーイズムを測定・KPI化した先進的な事例として知られています。

各社が公表するプレゼンティーイズムの数値は比較できますか?

比較はできません。測定尺度が各社で異なり(SOMPO=WLQ-J、第一生命・ロート=SPQ、味の素・KDDI=WHO-HPQ、コニカミノルタ=WFun)、『損失=低いほど良い』尺度と『パフォーマンス=高いほど良い』尺度が混在しています。数値は各社の自己申告・自社集計でもあり、各社の横並びの比較は成立しません。

健康経営銘柄に選ばれた企業は株価・業績が良いのですか?

相関は見られても、因果とはいえません。研究者は『優良企業だから健康経営も株価も両立できている』という逆の因果や交絡を指摘しており、証券リサーチは、銘柄全体の株価がTOPIX並み〜やや下回る水準であり、一部の好成績もバリュー相場という外部要因が大きいとしています。『健康経営をすれば必ず業績が上がる』と考えることは誤りです。

健康経営に取り組めば、すべての指標が改善しますか?

すべての指標が改善するわけではありません。味の素はプレゼンティーイズムが横ばい・欠勤が微増、KDDIは欠勤が増加しており、各社とも喫煙率や高ストレス者率で目標未達を開示しています。未達も含めて開示している企業は、信頼性が高いといえます。自社で尺度を固定し、時系列で追いながら改善することが現実的です。

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